■象潟 蚶満寺と九十九島 …にかほ市象潟町 
1689年新暦8月1日、芭蕉一行は憧れの象潟に到着します。ここに入った日は雨風で有ったが、翌日は良く晴れたので舟を浮かべてこの地に
遊ぶ。
←昔は海水がこの辺り一帯を満たしていた。
 風光明媚な地を沢山見てきたが、今は象潟へと心が躍る。酒田の湊から東北の方向、山を越えて海岸線を伝い、
砂地を踏み、その距離10里余り日が沈みかけた夕方に到着したが、潮風が砂を舞い上げ、雨によって周りがぼぉー
とかすんで鳥海山が隠れる。雨の降る光景も良いものだが晴れればもっと良いだろうなと猟師の粗末な小屋で雨が
上がるのを待つ。
 その翌朝、空はからりと晴れ上がり朝日が昇ってきたので象潟に船を浮かべた。
先ず能因島に船を着けて能因法師が3年住んだ場所を訪ねた。
向かいの岸に西行法師が『象潟の桜はなみに埋もれて花の上こぐあまの釣船』と詠んだ桜の老木が記念として残っ
ている。入江のほとりに神功天皇の御稜と言うのがある。ここのお寺は干満珠寺と言うが、ここに神功天皇がお越し
なったとは聞いていない。どういうことなのか? 
 このお寺の方丈に座って簾を上げると風景が一望の下に見渡せて、南に鳥海山がそびえ立って海面に姿を映して
いる。西は、うやむやの関が道を遮り、東に堤を築いた道がはるか秋田まで続いて、日本海が北に位置して波が入
って来るところを汐越しと呼んでいる。
 入江の縦横は1里ばかりで、その姿は松島に似ているようでまた違うような気がする。松島は笑うようで、象潟は
恨んでいる様である。寂しい上に悲しみを足して土地の様子はまるで美人が心を悩ましているようだ。
  
象潟や雨に西施(せいし)がねぶの花 …美しい象潟よ!雨の中の合歓の花は中国の美女「西施」のようだ。
汐越や鶴はぎぬれて海涼し …汐越(象潟の別名)には鶴がいる。鶴の足が濡れていて海が涼しそう!
三崎峠から象潟町に入りJR象潟駅の先道の駅 象潟「ねむの丘」の少し手前の踏切を越えると直ぐ蚶満寺の駐車場になります。
駐車場の前には「奥の細道」の標識と松尾芭蕉の像がありました。 句碑は『象潟や雨に西施(せいし)がねぶの花』。   ↑山門
↑本堂。本堂の裏手には、芭蕉関連のものが有ります。 写真右は、句碑:句は『象潟や…』で二段上のものと同じです。
芭蕉はこの辺を船(※下の方参照)で回遊し、ここに船を止め岸に上った。ここには西行法師が歌ったとされる桜の木がありました。
象潟の 桜はなみに埋もれて 花の上にこぐ あまの釣舟
…象潟の桜の花は波の間に散って、その花の上を漕いで行く釣舟であることよ
 上の写真は、『紅蓮尼の碑』で奥の細道とは関係有りません。
ここ、象潟町と宮城県・日本三景の松島町とは姉妹都市ならぬ『夫婦町』の関係に有ります。
今から700年前、ここ象潟の商人夫婦と松島の夫婦がお伊勢参りで道ずれになりました。象潟の夫婦には18になるタニ(のちの紅蓮)と言う娘
がおり、松島の夫婦には小太郎と言う息子がおりました。縁談が相整い、タニが松島に到着してみると相手の小太郎は病気で亡くなっていま
した。
「象潟に戻り、良い嫁ぎ先を見つけて欲しい」と、戻る事を勧めましたが、タニは「私は、縁あってここまで来ました。ここに置いて下さい」と言っ
て松島の夫婦の下で、尽す事になります。姑が亡くなったのを機会に仏門に入り、紅蓮と名乗り『こうれん』と言う煎餅を作って売った所、良く
売れました。今でも、このお菓子は有ります。
右の歌は、梅の木の主で本来は夫となるべき小太郎もいないのに咲かないでおくれ、と歌ったら梅の木は花を咲かせなくなった。 花の咲か
ないのも寂しいので、もう一度咲かせて欲しいと歌ったら、梅の木は、また花を咲かせるようになったというものです。
 さて、本題の奥の細道に戻りましょう。
蚶満寺の駐車場からJR羽越本線の脇沿いに『九十九島』の遊歩道が有ります。今では田んぼの中に有る島々を巡って歩く事が出来ます。
もともとここは、象潟=象の様な潟の中に島々が点在し、太平洋側の日本三景・松島に対して日本海側の『西の松島』と称されたところです。
潟が段々干上がり、かなり陸続きになってきたところに、今から200年程前の1804年の象潟地震により1.8mほど隆起し『陸地』になってしまい
ました。
芭蕉が訪れたのは1689年ですので、海底の隆起により陸地になってしまった115年前になります。
その頃は、船を浮かべ魚やシジミを採っては料理をして味わう舟遊びをするのが風流人の遊びでした。

 蚶満寺の斜め向いに道の駅 象潟「ねむの丘」が有り展望台が有ります。右上と下の写真がそこからの写真です。
右上の写真で、この地の海抜がそんなに高く無い事が分るかと思います。  下の写真は展望台からの九十九島の風景です。
芭蕉が見た風景を見たければ、田植えの頃にここを訪問されるのが良いでしょう。水面に浮かぶ島々を見ることが出来ます。

 三崎峠を経て象潟・蚶満寺(かんまんじ)に到着しました。幸い雨は上っていましたが少し前まで雨が降っていたらしく道も濡れています。
到着したのが14:40分頃でこの地で一時間ほど散策しました。
この町には、芭蕉ゆかりの地が沢山あるそうですが、日程の都合上、蚶満寺(かんまんじ)とその周りの九十九島を訪ねて終わりです。
それと、今にも降りだしそうな曇天でかなり暗く、撮影もそろそろ限界かなと言う感じでした。
  2019.06.29 道の駅「ねむの丘」からの、上の写真と同じ方向の写真。
 一番下に、展望台からの説明写真を載せて置きます。

 
 鳥瞰写真(写真提供=KNさん)  
 ◆ 「ねむの丘」さんの展望台の解説写真…   
   田植前の水田に水を張った時はこう見えるようです。
  全体の展望  
  芭蕉が立ち寄った柑満寺付近  
 上の写真の左側  
  同じく更に左側