■ 西馬音内盆踊りについて…(撮影 2005.8.16)
     (にしもない)  








   
 
◆『不調和の中の調和』 or アンバランスの中のバランス
 
 みちのく・秋田県羽後町西馬音内の『西馬音内盆踊り』は国の無形文化財で日本三大盆踊りの一つです。
日本三大盆踊りとは、この地の西馬音内盆踊り、富山市八尾の緒わら風の盆、新潟県佐渡の佐渡おけさ
です。
 みちのくの人口3万足らずの、しかも西馬音内地区は人口5千人の小さな町の、流麗で優雅な盆踊りは妖
しいまでの雰囲気を醸し出す踊りです。
美人の形容詞、「
小野小町」の生誕地も近くにあり、手先の優しい動きにますます色香を感じます。
  
摩訶不思議なのは、この盆踊りは『不調和の中に調和を保っている』事でしょう。

●被り物
 
踊りには、顔が見えない「深編み笠」、「彦三頭巾(ひこさずきん)、そして素顔が有ります。
 同じ踊り子の顔を見せないおわら風の盆などは、深い編み笠で統一されていますが、ここでは三種類が
混在融合されています。
  
【深編み笠】
 主に、端縫い衣装を着た成人女性が被ると言われています。
  
【ひこさ(彦三)頭巾】
 主に、未成年女性が被ると言われています。 男性が被ることも有ります。
黒い覆面をするいわれもはっきりしませんが、『亡者踊り』と言われた雰囲気をかもし出します。目の穴の所
に光っている物が有るのは何だろう?と、思ったら黒いボタンが目穴の真ん中に着けて有ります。
  
【素顔】
 これは、子供たちのです。被り物は着けません。

●衣装
 
衣装も、おわら風の盆のように浴衣に統一されているわけでなく三種類です。

【端縫い衣装(はぬいいしょう)】
 西馬音内盆踊り特有の美しい衣装。女性の多くが用いるのが「端縫い衣装」で、多くの場合編み笠と共に
用いられます。
端縫い衣装は、4・5種類の絹布を端縫ったもので、今風に言えばパッチワークみたいなものです。
祖母から母へ、母から娘へと受け継がれているものも多いと言われています。

【手絞り藍染の浴衣】
 端縫い衣装を持たない、あるいは持っていても汗が溜まるのを嫌い、最終日まで取っておく場合などは、
藍染の浴衣を着用するようです。

【普通の浴衣】
 これは、主に子供たちが踊る時に使用します。これは、日本全国共通の浴衣です。

●お囃子と、踊りの不整合

お囃子は、四種類。踊り用に主に使われているのが「音頭」と「がんけ」。
踊りは、音頭とがんけの二種類です。ただし、踊りの所作とお囃子はある意味全然関係ないのです。

【音頭】
 お囃子の、音頭は民謡・秋田音頭そっくりです。我らが東北独特の抑揚のない一本調子の歌詞が歌われ
ます。 民謡なんか聞いた事が無い!と言う若い方々には、民謡のメロディに乗った「RAP」だと思っていた
だければよいでしょう。
 歌詞は、日常生活・社会風刺・夜遅くなると歌われる大人向けの下ネタ(例えば「きんた○」などが堂々と)
が『地口(じぐち)』と呼ばれる唄い手により唄われ観客の笑いをとります。

 優雅な踊りとは、凡そかけ離れた歌詞です。

【がんけ】
 がんけは、月光の夜を飛ぶ雁(かり)の姿を踊りから連想した「雁形」から来たとも、仏教の「勧化(かんげ)、
「願生化生(がしょうけしょう)=現世の悲運を悼み来世の幸運を願う」がつまって「願化(がんけ)」などの諸説
が有りますが、お囃子の、歌詞、節回しには哀調が漂い、本来、娯楽の踊りでは無かったと言われています。

踊りでは、袖口を掴んで踊ったり、ぐるっと一回りする振り付けが入ります。
  
● 踊りの由来

踊りの起源・沿革ははっきりしません。700年前に蔵王神社奉納で始まり、宝泉寺境内で400年前に始まった
亡者踊りと合流、220年前辺りに現在の本町通りで踊られるようになりました。大正時代に、「風紀を乱す」と
の理由で警察の弾圧がかかり一時非常に衰退してしまいました。しかし、数年後に復活の動きが活発になり、
現在まで継承されてきています。「西馬音内盆踊り保存会」が毎月一回踊り講習会を開催し、伝統文化の普
及・伝承に努めています。
【参考写真】
編み笠と端縫い衣装 ひこさ頭巾と藍染浴衣 子供たち
編み笠と端縫い衣装、藍染浴衣着用そしてひこさ頭巾の踊りの輪 男性踊り手
   
◆ 西馬音内盆踊りのスケジュールについて
   
 西馬音内盆踊りは、毎年8月16日〜18日の3日間開催されます。
時間は午後7時30分から11時(最終日は11時30分)までで、最初は中学生ぐらいまでの子供が中心に踊り
大人は、9時過ぎから多くなります。 前半は、比較的子供でも踊りやすい「音頭」を踊ります。9時の入れ替わ
り時間になると、子供たちは景品を貰って家路に着きます。
休憩時間に、道路に砂をまき始めます。これは、左足を基点にくるっと一回りする「がんけ」の踊りが大人の時
間になると踊られるので回りやすくする為のようです。(上の、左下の写真の踊り手の足元が茶色になってい
るのがお分かりになりますでしょうか)

●祭りの会場
 羽後町の役場がある西馬音内地区の中心部本町通りの300m程が会場になります。
盆踊り会館脇の道路の一部と合せ、T字の形になります。お囃子は、盆踊り会館の櫓で演じられます。
●『特設会場』
 通りを一本南に入ったところ(コミュニティセンター)に特設会場が設けられ、8時、9時の二回20分ほど踊り
が披露されます(当日券、4時から販売。500円の入場券:各200枚限定。ここでは、祭りの輪に入っての
写真撮影OKとのこと)

  
◆ 私のように、何時か行って写真を撮りたい!!と、思っている方へ
  
 富山市・八尾のおわら風の盆は、11町内でそれぞれに踊りが披露されますので、散策兼ねて出来るだけ町
外れに行くと観光客も少なく、踊りの一番前で写真撮影をするチャンスに恵まれます。
しかし、ここ西馬音内盆踊りはそうは行きません。踊りの場所は、二車線の商店街の通り一箇所で15万人の
観光客が溢れますので。

●『特設会場』の入場券をゲットする。
 祭り本会場の有料指定券の入手は難しいので、何としても特設会場の入場券はゲットすべきです。
 
●祭り会場の有料指定券
 事前予約は、往復はがきによる抽選方式です。当日券は、午後2時受付、3時発売開始ですが…
桟敷席は、たったの80席、止まり木の様なベンチ形式(4人座れる)のが120席ですので、早めに並ばないと難
しそうです。(桟敷:1人 2,000円。 止まり木:1台、4,000円。 いづれも2005年の場合)

★余談
 今回、某旅行会社のバスツアーで行きました。会場を目の前にして時間つぶしの温泉施設入浴などがあり、
現地に5時過ぎに入りました。 この日は、お昼前に宮城沖を震源とした大きな地震が有り、高速・東北道など
も通行止めになる影響が出ましたので、その性でしょう、「福島県以南の観光バスが一台も入っていません」
との事でした。 焦る気持ちを抑えながら、先ず特設会場に直行し『8:00からの当日入場券』をゲット!
 その足で、本部のある盆踊り会館に行ってみたら、有りました!当日券が!! ラッキーです。
我家の方で災害あれば、訪問先では幸運が。人生『塞翁が馬』かも知れませんね。

  
◆ おわら風の盆と西馬音内盆踊りについての私見
  
 八尾にしろ西馬音内にしろ、人口5,000人の町にその30-50倍もの観光客が押し寄せます。
関係者にしてみれば、やんわりと『観光のための踊りでなく町人が楽しむ踊りです』とお断りを入れないと対応
は難しいでしょう。
 二つの踊りを見た感想を書いておきます。
●八尾・風の盆
 本来、哀愁を帯びた胡弓の音に乗って、優雅な踊りが展開されます。
真夜中、人通りが無くなってから少人数で町内を流す。これを見ることが出来れば、感動ものでしょう。
しかし、一般の観光客には難しい事です。観光客が集中する中心部では、どこかで踊りが始まると、獲物に
群がるハイエナのように人が集まり(特におばちゃんパワーでいつの間にかどんどん前に入られる)写真撮影
はおろか、踊り自体もほとんど見ることが出来ません。
上にも書きましたが、観光客の少ない町内を探し当てるとでしょう。
この祭り行っても『不満足感』が残ります。逆に、又行って見たいとのリピーター効果が有るかも知れません。
(注)富山市立八尾小学校グラウンド演舞場における演舞会で、当日券を入手すれば全体像は把握できます
   また、『前夜祭』として、10日前から各町内会1箇所毎、踊っているようです。フラッシュ禁止のところも有
   りますので、事前に調べてください。

●西馬音内盆踊り
 こちらは、踊りの会場が一箇所であり、踊り自体も7:30-11:00までぶっ通しで踊られ、かつ踊りの場所と観覧
場所は区切られていますので(踊りの輪の中へは進入禁止)他人の頭越しであれ、踊りは見物できます。
しかも、お囃子は会場内に流れていますので音頭のユーモラスな歌詞(外国語にしか聞こえない人もいるで
しょうが)を楽しみながら太鼓・すりがねと三味線・笛の調子に体の血は騒ぎっぱなしです。
 そして、踊り自体に加え、その色とりどりの衣装が凝っていますので、一列になって踊る皆さんの衣装を鑑賞
していても楽しいものです。 私にはこちらの方が、見応えが有りました。
 
 同じ東北にいても、この祭りの存在を知ってから多分10年も経っていないと思います。それほどマイナーな
お祭ですが、最近人気が出てきているようです。